ヒンディー語について
ヒンディー語はインドの代表的な言語です。母語としての話者人口はおよそ4億人超えています。インドの現在の人口が約10億人といわれていますので、その4割ほどの人にとっての母語ということになります。また、たとえ母語ではなくとも、ほぼ不自由なく会話ができたり、読み書きができる人たちはインド中にたくさんいます。その意味からも、インドを理解するためにもっとも有効であり、また必要な言語であると言えます。
さて、ヒンディー語はインド・ヨーロッパ語族に属しています。はるか遠い昔にインドに移住してきた人たちが持ち込んだ言葉をもとに発展してきた言語として、遠くは英語やフランス語などのヨーロッパの言語と、近くはイランのペルシア語などと親縁関係にあります。反対に、インド国内で言えば、南インドを中心に話されているタミル語やカンナダ語などのドラヴィダ諸語とはまったく別系統の言語です。
古代インドに自らをアーリヤ人と称していた一群の人たちが移住して、自分たちの宗教思想をサンスクリット語と呼ばれる古典語で表現したものはヴェーダ文献と総称され、今日まで伝わっていることはよく知られています。その後、サンスクリット語は歴史の流れの中でさまざまに変化し、現在北インドを中心に大勢の人々に話されている言語へと発展してきました。たとえばインドの東のバングラデシュの国語でもあり、インドのベンガル州の公用語の一つでもあるベンガル語、北西インドのパンジャーブ州のパンジャービー語、ラージャスターン州のラージャスターニー語、マハーラーシュトラ州のマラーティー語なども、同じサンスクリット語から発展した言語として、ヒンディー語とは非常に近い関係にあります。
ところで、ヒンディー語が話されている北インドの中でも、皆さんが都市を離れて一歩村に足を踏み入れるとそこで話されている言葉を理解するのは至難の業となります。そこにはヒンディー語の多様で実に豊かな方言の世界があります。みなさんがここでヒンディー語として学習しようとしている言語は、デリーやデリーの周辺地域で今も話されているカリー・ボーリーと呼ばれるヒンディー語の有力な一方言をもとにして発展した言語です。他にもたとえばタージマハルで有名なアグラ地方で話されている方言は、ブラジバーシャーという名前で知られています。もっと東の有名なヒンドゥー教の聖地ベナレスで日常会話に用いられている方言は、ボージュプリーです。しかし、ご心配なく。みなさんがこれから学ぼうとしているヒンディー語はアグラでもベナレスでも、そして当然のことながらデリーでも、どこでも通じますし、あなたがヒンディー語を話すのを聞けば、たいていのインド人は驚き、喜び、たちまちあなたの友達になることでしょう。
本コンテンツについて
初級レベルのヒンディー語の力を身につけることを目的として本コンテンツは作成されています。まず、第1課でヒンディー語を書き表すのに用いられるデーヴァナーガリーと呼ばれる文字とその発音を練習してください。一部に慣れない発音がありますが、文字は日本のひらがなと同じ表音文字でその数も限定的ですし、発音と表記は整然と対応しています。最初は戸惑うでしょうが、一度覚えてしまえば、あとは新しく出会った単語であっても正しく読み書きができるようになります。
第2課から第12課までの各課は、スキットを学ぶための映像と、そこに出てくる新出単語や表現を学ぶためのテキスト、文法解説、そして学習成果を確認するための問題集などがひとまとまりのセットとなって用意されています。語彙力を身につけるために別途、語彙集も準備しました。語彙の中には映像がリンクされているものもありますので、単語を学びながら、インドの風物も楽しんでください。
スキット映像では、さまざまな場面を設定して、ヒンディー語を学ぶ日本人女子学生とインド人の登場人物が会話を交わしています。楽しみつつヒンディー語会話を学んでください。
このコンテンツで使われているヒンディー語について
会話ビデオでは、できるだけ加工されない、生のヒンディー語を体験していただくため、あえて発音の矯正などは行っていません。このため、出演者のクセや出身地などによる訛りが残っている場合があります。ビデオでは、会話の緩急や抑揚など、臨場感をお楽しみいただき、発音を練習する際は<音声練習>に収録されている教材のご使用をおすすめします。ビデオと音声練習用教材では、若干異なる表現が使われていることがありますが、音声練習用教材は<各台詞の発音確認のコーナー>で別窓に表示されるスキットと一致しています。
また、女性複数形を表す動詞の活用は、現今の会話ではほとんど男性複数形に代用されているというネイティヴ・スピーカーからの意見を受け、この教材でもしばしば男性複数形を使用しています。
新出単語および基礎語彙集の凡例
感 | = | 感嘆詞 |
数 | = | 数詞 |
形 | = | 形容詞(活用しない)、形容詞句 |
接 | = | 接続詞 |
形+ | = | 形容詞 |
接尾 | = | 接尾辞 |
後 | = | 後置詞 |
他 | = | 他動詞 |
コ動 | = | コピュラ動詞 |
代 | = | 代名詞 |
固名 | = | 固有名詞 |
男 | = | 男性名詞 |
自 | = | 自動詞 |
中 | = | 両性名詞 |
女 | = | 女性名詞 |
動 | = | 動詞句 |
助 | = | 助詞 |
副 | = | 副詞、副詞句 |
助動 | = | 助動詞 |
副助 | = | 副助詞 |
ヒンディー語コンテンツの製作にたずさわった人々
統括:
松木園 久子(世界言語研究センター特任研究員)
序章、文法編、読解練習:
高橋 明(世界言語研究センター教授)
表現編、文法解説、練習問題:
松木園 久子
会話ビデオ脚本:
松木園 久子
ヤースミーン・スルターナー・ナクヴィー(世界言語研究センター外国人招へい教員)
アヌシュリー(言語文化研究科博士後期課程)
会話ビデオ出演:
ヤースミーン・スルターナー・ナクヴィー
アヌシュリー
倉橋 愛(言語文化研究科博士前期課程)
ニシャ・パラメシワラン(日本語日本文化教育センター)
ラケシュ・ラウサン(日本語日本文化教育センター)
モハッマド・モインウッディン(文学研究科博士後期課程)
松木園 久子
会話ビデオ字幕、基礎語彙集データ入力:
川端 あかり(外国語学部ヒンディー語専攻)
草野 健三(外国語学部ヒンディー語専攻)
筆順アニメーション製作:
並川 青慈(世界言語研究センター特任研究員)
辞書、基礎語彙集製作:
村山 健二(世界言語研究センター特任研究員)
撮影、映像編集:
小林 直明(世界言語研究センター特任研究員)
撮影および映像・音声編集の補助:
山口 良子(外国語学部ロシア語専攻)
渡邊 梨沙(外国語学部日本語専攻)
西方 千恵(外国語学部ヒンディー語専攻)
高度配信プロジェクトルームのスタッフの皆さん
撮影協力:
ヤースミーン・スルターナー・ナクヴィー
ハルジェンドラ・チョウドリー(デリー大学カレッジ講師)
録音出演:
ヤースミーン・スルターナー・ナクヴィー
録音、音声編集:
松木園 久子
Webデザイン統括:
小幡 信(世界言語研究センター特任研究員)
監修:
高橋 明
(肩書は2010年3月31日現在)
※「基礎語彙集」は、古賀勝郎編『ヒンディー語語彙集』(大阪外国語大学、1970年)より抜粋、引用しました。使用をご快諾くださった古賀先生に御礼申し上げます。