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●文法解説

 

ここでは,第10課で使われた表現に関連のある文法事項について説明します.

 

1. ユニット強勢

 これまでの課別学習で,単語における強勢については必要な際に「新出単語」の中で触れてきました.これとは別に,いくつかの箇所で「この場合に動詞に強勢は置かれません」というような説明をしてきました.次の例を見てみましょう.

 

dække bord <テーブルセッティングをする>

 

 この場合,動詞dække <覆う> がそれに続く要素 (bord) とひとまとまりになって,<テーブルセッティングをする> という意味を表していると考えられます.このように,ある動詞がそれに続く何らかの要素とひとまとまりになってある特別な意味を表す場合に,本来であれば動詞に置かれるはずの強勢がなくなり,その強勢は動詞に続く要素に移ります.またこの場合,動詞に続く名詞はどんな限定詞(不定冠詞や定冠詞)も伴わないことに注意してください.

 この現象は,デンマーク語でユニット強勢と呼ばれるものの1つです.これまでの課で学習した表現のうち,dække bordと同じように,{動詞+(不定冠詞や定冠詞は付かない)目的語}というタイプのユニット強勢をもつものを以下にまとめます.(赤色太字部分はそこに強勢が置かれることを表します.)

 

 lave aftensmad 夕食を作る

 lave mad 料理をする

 holde fest パーティを開く

 

 

 {動詞+(不定冠詞や定冠詞が付かない)目的語}でユニット強勢を持つ動詞句は,日常会話でもよく使われます.ここでこれまでの課で学習した以外の例についても確認しましょう.

 se fjernsyn テレビを見る

 høre radio ラジオを聞く

 holde pause 休憩をする

 vaske hænder 手を洗う

[vaske (-de, -t):洗う]

 børste tænder 歯を磨く

[børste (-de, -t):磨く]

 tjene penge お金を稼ぐ

[tjene (tjente, tjent):稼ぐ]

[penge (pengene):お金]

 få besøg 訪問を受ける

 tage fejl 間違える

 køre bil 車を運転する

 

注意! 

 se fjernsyn <テレビを見る> には,上でも確認したように,ユニット強勢が起こります.一方,se et fjernsynというように{動詞+不定冠詞+目的語}という言い方もあり,この場合,強勢はfjernsynばかりではなく,動詞seにも置かれます.またこれら2つの言い方は意味の点でも異なっています.se fjernsynは <テレビを見る> つまり <テレビから流れる映像を(情報を得るために/リラックスするため等に)見る> という行動・行為を意味していますが, se et fjernsynは <ある1台のテレビ受信機が見えている> という意味になり,この場合はfjernsynが具体的に <テレビ(という電化製品)> のことを表しています.

 したがって日本語で <テレビを見る> と言った場合には,多くの場合が <テレビ番組を見る> という意味であるでしょうから,対応するデンマーク語はse fjernsynとなるのですが,例えば何らかのテストあるいは検査等で,テレビの絵が描かれたカードを提示され,「何が見えていますか?」などと質問された場合に,「テレビが見えています」と言う場合には,対応するデンマーク語はse et fjernsynとなります.

 このように,ユニット強勢を成す{動詞+冠詞等の限定語の付かない目的語}の言い方と,例えば{動詞+不定冠詞+目的語}のような言い方では意味が異なるのです.

 

 

 ユニット強勢は,次のような例にも見られました.

 

Vil du trække rødvinen op? 赤ワインを開けてもらえますか?

 

 この場合は,[trække ~ op]で <~を開ける> という意味を表すひとまとまりの単位として解釈されるため,動詞trækkeに強勢はなく,副詞opに強勢が置かれます.

 このように{動詞+副詞}という結びつきでユニット強勢を持つものも,これまでのスキット内でいくつか見られました.

 

Har du din paraply med? あなたは自分の傘を持ってきていますか?

 

Gider du godt lukke op? ドアを開けてもらえますか?

 

 上記の例は{動詞+副詞}が他動詞の場合ですが,以下の例のように{動詞+副詞}が自動詞である場合にもユニット強勢は起こります.

 

købe ind 買い出しに行く,買い物に行く

stå op 起きる

stå 乗車する

 

 

 さらに,次のような場合にもユニット強勢が起こります.

 

Lad os gå forbi Amalienborg!

アメーリェンボー宮殿を通り抜けて行きましょう!

 

 この場合は,動詞gåが <行く> という意味で使われる,つまり「移動」を表していて,それに続く前置詞句forbi Amalienborgがその目的地・方向を表しているので,全体で1つのまとまりとして解釈されるため,動詞gåには強勢はなく,前置詞句forbi Amalienborgに強勢が置かれます.

 次のような例もこのタイプのユニット強勢だと考えられます.

 

til venstre 左へ行く

til højre 右へ行く

 




2. 語順6

 これまで完結文の語順,そして従位節内の語順について学びましたが,ここでは完結文の基本語順から外れる場合について,説明します.まず,次の例文を見てみましょう.

 

 I Japan spiser man det ikke råt. 日本ではそれを生では食べません.

 

 この文は完結文ですので,完結文の語順にあてはめてみましょう.

 


前域中域後域
定形動詞主語中域副詞不定形動詞その他の要素
I Japanspisermandetikkeråt.

 

 これまでに習った完結文の語順では,中域には「定形動詞」,「主語」そして「中域副詞」が置かれるということでした.しかしながら,上の例からも分かるように,中域内で,「主語」と「中域副詞」の間にdetという,本来であれば後域に置かれる「目的語」が置かれています.これは何故でしょうか?

 

 ここで,上の例文のdetをkinakålに変えた場合の語順について見てみましょう.

 

 I Japan spiser man ikke kinakål rå. 日本では白菜を生では食べません.

 


前域中域後域
定形動詞主語中域副詞不定形動詞その他の要素
I Japanspisermanikkekinakål rå.

 

 この場合は中域には「定形動詞」,「主語」そして「中域副詞」が置かれていて,「目的語」のkinakålは後域に置かれています.

 つまり,「目的語」がkinakålである場合と,detである場合とで語順が異なるということです.

 kinakålとdetの違いは,kinakålが名詞であるのに対して,detが人称代名詞であるということです.デンマーク語では,名詞には原則として常に強勢が置かれます.これに対して,人称代名詞は「対比」などの特別な意味の場合には強勢が置かれますが,原則として強勢は置かれません.まず目的語がkinakålである例文を確認しましょう.

 

 I Japan spiser man ikke kinakål rå.

 

この場合は,目的語のkinakålに強勢が置かれているので,通常の完結文の語順となっています.それでは目的語がdetである例文を確認しましょう.

 

 I Japan spiser man det ikke råt.

 

この場合は,目的語detが人称代名詞で,なおかつ強勢が置かれていないために(=弱強勢目的語),リズムの関係で,中域副詞の直前に移動したものと解釈されます.ここでもう1度,最初の例文I Japan spiser man det ikke råt. の語順を見てみましょう.

 


前域中域後域
定形動詞主語弱目的語中域副詞不定形動詞その他の要素
I Japanspisermandetikkeråt.

 

 

 以下に,これまでの課別学習で,このような弱強勢目的語の移動を含んだ語順を持つ例文をまとめてあるので,弱強勢目的語を含む語順について確認してください.

 


前域中域後域
定形動詞主語弱目的語中域副詞不定形動詞その他の要素
Hvorharduden?
Jeg har deni tasken.
Ladoskommeaf sted!
Ladosforbi Amalienborg!
Ladoslavefrikadeller og gulerodssalat!
Ladosskyndeos hjem at lave mad!
Desudenlæggersneensigheller ikke så tit.
Jegglædermigtil at møde din familie.
Lad osgøredet!
Lad osfortsættetil Helsingør!

 

 

注意! 

 この「弱強勢目的語の移動」は,文が定形動詞(現在形,過去形,命令形)のみを含む場合に適用されます.したがって次の例文のように,文が定形動詞と不定形動詞を含む場合には適用されません.

 

Har du nogensinde mødt ham? これまでに彼に会ったことがありますか?

 

 この例文でも,人称代名詞hamは強勢の置かれない(弱強勢の)目的語ですが,中域副詞 (nogensinde) の直前に移動することはありません.