デンマーク料理
デンマークの家庭における料理はここ30年間でかなり変化してきています.海外で休暇を過ごす人々が増えるにつれて,彼らの嗜好は伝統的なデンマーク料理から次第に遠ざかり,南欧や中近東やインド料理,そして日本料理にまで及びつつあります.
伝統的なデンマーク料理はデンマークの農業と密接につながっています.なぜならデンマーク農業の主要構成要素,つまりブタ,ジャガイモ,小麦,牛乳などはすべてデンマーク料理にはなくてはならぬ主力の食材だからです.
肉料理にはジャガイモを忘れずに.
ドイツ人がジャガイモをデンマークに持ち込んでからというもの,ジャガイモはデンマーク人の食卓の中心を占めてきました.食べ方はいろいろです.一般的なのはボイルして肉料理の付け合わせにしますが,夏場の新ジャガはなかでも最高です.皮付きのままボイルして,ポテトサラダやグリル料理の付け合わせに使います.またクリスマスにも,“ブラウンポテト”を食します.これはボイル済みのとても小さなジャガイモを熱々のキャラメルソースで和えるのです.
伝統料理の多く,たとえば「ロースト・ポーク (フレスケスタイflæskesteg)」や 「デンマーク風ミニハンバーグ (フリカデレfrikadelle)」や「野ウサギもどき (フォローアン・ハーアforloren hare)」などは豚肉が主たる材料ですが,これらのメインにはたいていブラウンソースとボイルしたジャガイモが添えられ,付け合わせに用いられる典型的な野菜は人参,グリーンピース,カリフラワーです.
野ウサギもどき (左はブラウンソース)
デンマーク風ミニハンバーグ
黒パンにも白パンにもいろいろなものをのせて食べます.
デンマーク人にとってジャガイモと同様に大切な食べ物はパンです.デンマーク人は白パンと黒パン,両方ともよく食べます.小麦がベースの白パンは普通朝食の食卓に上ります.バターやジャムを塗って,近頃は子供がこれに薄いチョコレート載せて食べています.それに対して,ライ麦がベースの黒パンは昼食の典型的な食材です.スマアアブレズsmørrebrød(オープンサンドイッチのこと)といって,薄くスライスした黒パンの上に小エビやローストビーフ,魚のフライなど,さまざまな具をのせてオープンサンドイッチのようにして食べます.
最後に粥料理のことについてひと言.以前は粥料理がデンマーク料理のなかで重要な役割を果たしていましたが,その伝統は今もさまざまな機会で生きています.ハウラグレズhavregrød(オートミール粥)は朝食に,ウレブレズøllebrød(ライ麦パンをノンアルコールに近い黒ビールで煮込んだ粥)は夕食に,そしてもう1つ,リーセングレズrisengrød(米をミルクで煮て,シナモンシュガーをふりかけ,バターの塊を落として食べるミルク粥)が挙げられます.元々は,クリスマスに食されるものでしたが,現在は季節を問わず食されるようです.
この粥料理には主食として食べられる穀物を煮たものだけでなく,デザートとして食べられる果物を煮たタイプのもあります.果物をどろどろになるまで煮て,それに砂糖を加えて冷やしたものに,生クリームあるいは牛乳をかけて食べます.
いろいろな種類がありますが,中でも有名なものとして,rødgrødが挙げられます.rødgrød とは,solbær(クロフサスグリ),ribs(アカフサスグリ),hindbær (ラズベリー)などのベリーを煮てどろどろにしたものに砂糖を加えて冷やしたものです.デンマークを旅行したり,あるいは住んでいたりして,自分はデンマーク語を勉強していると告げると,デンマーク人は必ずといっていいほど,ではrødgrød med flødeと言ってみてと言います.という発音ですが,これが言えるようになるまでにはかなりの努力が必要です.ですので,このrødgrød med flødeを頑張ってデンマーク人の前で発音してみたとしても,正しい発音をするのは難しく,デンマーク人は,難しい発音に四苦八苦する外国人の姿を見て楽しむといったことが少なくありません.
デンマーク料理に欠かせない,もう1つのもの,それはビールです.デンマークには実に様々な種類のビール銘柄が存在します.
Hof eller Tuborg?
この第9課では,リーヴァがジュンコに,Hof eller Tuborg? <ホフにしますか?それともトゥボーにしますか?> と尋ねていますが,hofはカールスベア社 (Carlsberg) のピルスナー(ピルゼンビール)の愛称で,tuborgはトゥボー社 (Tuborg) のピルスナーGrøn Tuborgの愛称です.以前は,例えば,コペンハーゲンのレストランやパブでビールを注文すると,必ず,Hof eller tuborg? と尋ねられたものでした.一方,フューン島 (Fyn) のオーゼンセ (Odense) などに行くと,何も尋ねられることもなく,ごく自然に地元のビールが出されたものでした.しかし21世紀になった今日ではレストランやパブには外国のビールや地ビールなども含めた様々な銘柄を置いているので,Hof eller tuborg? というかつての定番の質問は聞くことがなくなりました.ちなみに,なぜhofというのかと言うと,hofとは <宮廷> を意味し,カールスベア社が宮廷御用達をしていたからです.
パスタや寿司が世界の食卓に躍り出るようになって,たしかにデンマークの伝統料理は後退ぎみです.それでもフリカデレやフレスケスタイなどは今なお子どもにも大人にも人気のあるメニューです.また最近は,若い世代の家庭では伝統的なデンマーク料理の新バージョン開拓に余念がありません.例えば伝統的なフリカデレはブラウンソースにボイルしたジャガイモが定番スタイルでしたが,今では脂肪分の少ないフェタチーズを入れたギリシャ風のフリカデレにアレンジして,付け合わせはトマトサラダとクスクスというように,デンマーク料理もグローバル化してきています.
―デンマーク風ミニハンバーグ:フリカデレを作ってみましょう!―
付け合わせには,ジャガイモやサラダなどを.
材料(4人分):
豚ひき肉:500g (あるいは合挽き肉:500g)
玉ねぎ:適量
たまご:1個
小麦粉:1dl
牛乳:2-3dl
塩コショウ:少々
バターなど:適量
作り方:
- ひき肉と小麦粉,たまごを混ぜ合わせる.(①)
- 玉ねぎをみじん切りにし,①に混ぜ合わせる.牛乳は少しずつ混ぜ合わせる.
- ①に塩コショウで下味をつけ,30分から1時間寝かせておく.
- フライパンに,バター/マーガリン/サラダ油を入れて温める.フライパンが十分に熱くなったら,①をスプーン(大さじ)で形を整えて,フライパンで焼く.
- 何度か裏返しながら,中に火がきちんと通るように,両面が茶色になるまで焼く.
- 出来上がり!