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アラビア語豆知識2

アラブの国々とアラビア語を話す人々

~~ アラビア語の意外な広がり ~~

 

はじめに:
 アラビア語は、「アラブ諸国で使われている言葉」と理解されている人が多いでしょう。それで正しいのですが、では「アラブ諸国」とはどこでしょうか。この問いは少し複雑なので、ご説明します。

アラビア語の系統とアラブの人々:
 アラビア語は、セム語族に属する有力言語で、姉妹語にはヘブライ語(イスラエル)があります。最近は、アフリカの一部の言語群とともに、アフロ・アジア語族と呼ばれたりします。
 アラビア語圏と隣接するイランとトルコは、同じ西アジアのイスラームの国ですが、アラブの国ではありません。イランはペルシア語の国で、インド・ヨーロッパ語族に属するので、東隣のパキスタンのウルドゥー語やインドのヒンディー語の姉妹語です。大きくは、英語やロシア語などと親縁関係にあります。トルコで使われるトルコ語はチュルク諸語の有力言語で、モンゴル諸語とともにアルタイ語に分類されます。

アラブの国々:
 アラブ諸国とは大まかに言って、アラブ連盟加盟国21カ国のことであると理解してください。この中にはパレスチナを含みますが、領有権争いのある西サハラ(モロッコの南)は含みません。さらにアラブ連盟には、ジブチ、ソマリア、コモロなどの国も加盟していますが、アラビア語は実質的な主要言語ではありません。ですから、こういう事情を踏まえて、概略20の国や地域だと考えればいいでしょう。

アラビア語を話す人々:
 エジプトなどのアラブの主な国々では、古代から連綿と文明が栄えた地域として、それぞれの国内に様々なエスニシティーの人々がいます。このことは、多様な宗教文化の背景を持つ人たちが、公用語であるアラビア語を用いてそれぞれの国の市民として暮らしていることを意味します。
 ですから、言葉を学ぶ者にとっては、出会う人の全てがアラブ人でムスリムであると早合点しないことが大切です。多くのキリスト教徒がアラブ文化の一翼を担い、国の発展に寄与しています。また、流暢にアラビア語を話すので、てっきりアラブ人だと思っていた人が、アラブ人でもなくムスリムでもないということもあるでしょう。謙虚に相手の生活習慣や文化への敬意を持ち、それぞれの国の歴史や文化を学んでいけば、その国の成り立ちについて意外な事実を発見し、アラビア語学習の楽しみとなるでしょう。

湾岸諸国の特殊事情:
 アラブの国とは言っても、近年の経済発展が著しい湾岸諸国に共通のお国事情を知っておく必要があります。これらの国々は、石油が発見されるまで主として遊牧社会の地域でした。それぞれ国家として独立し、今では多くの労働者を国外から受け入れており、アラビア語を話していても、高層ビルが林立する町中で出会う人々は必ずしもアラブ人であるとは限りません。

アラブ諸国の外でアラビア語を話す人々:
 アラブ諸国以外にも、アラビア語を用いる人々が数多くいます。トルコの小アジアの中には、まるで飛び地(「言語の島」と言います)のように、アラビア語を母語とするムスリムやキリスト教徒の村落があります。また、アフリカのチャド湖周辺には、アラビア語を使用する人々がおり、周囲の人と見た目では見分けがつきません。こうした人々は、それぞれの国の中で少数派ですが、アラビア語の母語話者です。
 また、異なる言語文化の背景を持つ人々の間では、アラビア語をベースとしたピジン(pidgin)語が生まれています。広大なアラビア語圏の周縁でそうした言語の存在が知られており、スーダン南部のジュバ・アラビア語(Juba Arabic)では、アラビア文字ではなくラテン文字の正書法が成立しつつあります。
 さらに、地中海に浮かぶカトリックの小国マルタの言語は、マルタ語(Maltese)と呼ばれるアラビア語です。カトリックの国なので書き言葉のアラビア語を共有せず、歴史の中で発展した話し言葉が基礎となっています。ラテン文字で表記されるので別言語のように見えますが、言語構造からみると、たとえば、対岸のチュニジアのアラビア語の話し言葉と同じく、アラビア語方言の一つです。

アラビア語を理解する人々:
 アラビア語を用いるいろいろな人々や地域のことを説明しましたが、何と言っても、その大多数はムスリムのアラブ人です。そして【アラビア語豆知識1】で説明したように、世界中のムスリムは、アラビア語書き言葉の源泉であるクルアーンを学び読んでいます。ですから、「アラビア語を話す」のではなくても、理解する人々はアラブの総人口をはるかに凌ぎます。その人々は、皆さんがすでに良くご存知のように、世界規模で増大しつつあり、衛星テレビ「アル・ジャジーラ」のアラビア語放送は、こうした人々も見て理解するのです。

おわりに:
 日本と異なる気候風土の中で育まれ、長大な歴史を生き抜き、現在は国連公用語の一つとして、現代世界の主要言語にまでなったアラビア語の意外な広がりがご理解いただけたと思います。この言葉を学ぶ皆さんの前に広がる世界は、ほとんど無限であると言ってよいでしょう。神様が、皆さんのアラビア語学習を成功に導いてくださいますように! 

 

(大阪大学世界言語研究センター教授 高階美行)