子音の発音

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破裂音(Plosives) b p d t ɡ k
摩擦音(Fricatives) v f ð θ z s ʒ ʃ h
破擦音(Affricates) ʤ ʧ dr tr ʣ ʦ
鼻音(Nasals) m n ŋ
わたり音(Glides) w j
流音(Liquids) l r

 まず、表の中から発音記号をクリックします。すると、表の下に選択した発音記号を含む単語の例が列挙されます。横のオレンジ色のボタンは、音声を再生するためのボタンです。

発音記号をクリックした後で表示される項目の名前(例:子音・摩擦音)をクリックすると、表示されている子音について解説が表示されます。

子音には有声音・無声音の区別があります。これは声帯の振動を伴うかどうかの違いですので、喉に手を当てて確認するとよく分ります。発音のメカニズムが同じ有声音と無声音がペアになっていることが多いですので、ペアであることを意識すると覚えるのが楽になります。

子音の発音で気を付けたいもう一つのポイントは調音です。調音とは簡単に言えば「音を出すこと」です。多くの場合、舌と口内の他の場所を組み合わせて空気の流れをコントロールすることで、調音が行われます。どの場所で(調音点)、どのように(調音法)音を出すのかを確認して、繰り返し練習してみてください。調音法によって子音はいくつかの種類に分けられます。詳細は以下の各項目の解説をご覧ください。

日本語では子音と母音が組み合わせられて一つの音を形成しますが、英語の子音はそれ自体で独立した音となっています。したがって母音を伴わない子音というものがありますし、また子音がいくつも連続している場合も多くあります。例えば英語の一音節の単語で最も長いのはstrengthだと言われますが、これも実はeのところにしか母音がありません(だから一音節なのです)。日本語では「ストレングス」のように母音を加えて発音するのが当たり前なので、子音の連続は慣れるまでやや難しいかも知れません。これも繰り返し練習で克服しましょう。

破裂音を出すには、調音点のところで空気の流れをせき止め(閉鎖)、一瞬その状態を保持した後で、調音点の閉鎖を解いて一気に空気を吹き出す(解放)ようにします。せき止めていた空気を開放するときに強い息の音がします。

[b]は[p]とペアになる破裂音で、上下の唇を調音点とすることから「両唇」の破裂音と呼ばれます。文字通り唇を固く結んだ状態で口内の空気の圧力を高め、唇を開くことで音を出します。その際、舌が歯茎などに当たらないようにしましょう。さもないと別の音になってしまいます。なお[b]は有声音なので、音を出す時に声帯が振動します。

[p]は[b]とペアになる「両唇」の破裂音です。調音点と調音法は同じですが、[p]は無声音なので、声帯は振動しません。喉に手を当てて振動の有無を確かめながら[p]と[b]を交互に発音する練習をしましょう。いずれの音も特に日本人にとって難しい音ではありませんが、あいまいに発音せず、破裂をしっかり行うように気を付けるとよいでしょう。

なお、[p]には「気息」が伴います。カタカナで書くと「プ(フ)」のように、発音の直後に弱い息もれの音がするはずです。これは無声音の特徴でもあります。[b]と比べてみて、気息があることを確認してください。

両唇の破裂音[p]と[b]は、後ろに[p]や[b]が続く場合に音がしなくなる傾向があります。調音法の関係で、続けて発音するのは難しいのですね。

[d]は[t]とペアになり、舌の先と歯茎部(上の歯茎の裏側の盛り上がった部分)を使って調音することから、「歯茎部」の破裂音と呼ばれます。これは有声音なので、声帯の振動を伴います。調音点は、日本語の「ダ行音」を出す場合よりも舌の位置が高くなるように意識するとよいでしょう。

ただし語末にくる場合(deedなど)には無声になりますし(「無声化」)、直後に破裂音が続く場合(roadblockなど)には破裂が十分に起きず、ほとんど音が消えてしまいます(「不完全解放」)。試しに発音してみて、自然にそうなることを確認してみてください。

[d]の発音のバリエーションとして、特にアメリカ英語で耳にする「弾音」というものがあります。これは歯茎部を閉鎖して空気の流れを遮るというよりも、歯茎部のさらに少し上を舌で弾くようにして出す音です。詳細は[t]の項目で説明します。

[t]は[d]とペアになる、「歯茎部」の破裂音です。[d]と同じく、舌先と歯茎部の接点で空気の流れを遮り、それを開放することで調音します。[t]は無声音ですので、[d]とは違って、音を出す際に声帯が振動しません。両者の違いは、喉に手を当てて振動の有無を確認するとよく分ります。無声音ですので、takeなどのようにアクセントある箇所の先頭では、気息が生じることがあります。[t]の調音点も、日本語の「タ行音」の時より舌先が少し高くなるように意識してください。

直後に破裂音が続く場合(meatballなど)に音がなくなるのも[d]と同様です。またbottleなどの語で後ろに[l]音が続く場合は、[t]音の形から舌の左右に空気の流れる道を作って[l]音の形に移行します。これを「側面開放」と呼びますが、専門用語はともかくとして、「ボトル」のように「ト、ル」と分けて発音するのではなく、[t]と[l]が滑らかに連続するように注意しなければなりません。

[t]にも「弾音」のヴァリエーションがあります。この場合[d]音との区別がつけにくくなり、matterがmadderに、metalがmedalに、あるいはwriteがriderに聞こえるということが起きます。アメリカ式の発音に多く見られる現象ですが、当のアメリカ人の英語話者にとっても聞き分けるの難しいようです。[t]なのか[d]なのかは、話の流れから推測するしかありませんね。

[ɡ]は[k]とペアになり、「軟口蓋」の破裂音に分類されます。口内の天井の喉に近い部分には骨がなく、舌で触れると軟らかくなっているのが分ります。この部分を「軟口蓋」と呼びます。軟口蓋に向かって舌の奥の方を盛り上げていき、そこを接触させることで空気の流れを遮ります。そこを開放して空気を開放し、破裂音を出します。[ɡ]は有声音ですので、声帯の振動が生じます。日本語の「ガ行音」と発音の仕方はほぼ同じです。

他の破裂音同様、直後に破裂音が来る場合(big gameなど)には音がなくなります。またgreatやleagueなど、語頭や語末に来る[ɡ]音も無声になります。「グレート」あるいは「リーグ」などのカタカナ発音では有声のままですので、英語らしく聞こえるようにするには、無声になるべきところで声帯を振動させないように練習しなければなりません。

[k]は[ɡ]とペアになる、「軟口蓋」の破裂音です。 調音点は[ɡ]と同じですが、[k]は無声音ですので、声帯の振動はありません。日本語の「カ行音」と発音の仕方はほぼ同じです。

語頭でアクセントが来る位置では気息を伴うことや(cakeなど)、語末では音が消えることが多いこと(bookなど)、さらに直後に破裂音が来る場合(bookkeepingなど)に音が消えることなどの特徴は、他の破裂音と同様です。

摩擦音を出す際には、破裂音とは違って、調音点が完全に閉じないために、空気が流れる狭い隙間が残ります。調音点の隙間を空気が通る際にこすれて出る音が摩擦音です。摩擦音も基本的にいくつかのペアに分類され、それぞれに有声か無声の区別があります。

[v]は有声の摩擦音です。上の前歯と下唇の組み合わせで調音することから、「唇歯」の摩擦音に分類されます。有声ですので、声帯の振動を伴います。下唇をギュッと強く噛んで発音するものと思われがちですが、特に強調して大げさに発音する場合を除いては、歯と唇が軽く触れる程度で十分です。イメージとしては、下唇の裏側に上の前歯の先を触れさせるくらいがちょうどよいでしょう。その状態で呼吸して、隙間を空気が流れてこすれるような音をたてているのを確認してみましょう。

[f]は[v]とペアになる、無声の「唇歯」の摩擦音です。無声ですので、声帯は振動しません。調音法は[v]と同じで、下唇の裏のところに上の前歯を触れさせて、その隙間から空気を押し出して摩擦音を生じさせます。これもやはり、下唇を「噛んで」しまわないように気をつけましょう。

[f]音を日本語の「フ」のように発音しないようにしましょう。「フ」の音は英語の[f]とは異なり、「唇歯」の部分で摩擦を作らずに唇を丸めるようにして発音します。[h]の項目でも説明しますが、日本語の「ハ行音」は厳密に言うと英語の[h]音とも違います。唇歯摩擦音は日本語にはない音ですので、意識的に練習する必要があります。

[ð]は[θ]とペアになる摩擦音です。舌の先を上の前歯に押し当てて調音することから、「歯音」と呼ばれます。スペルで言うとthの組み合わせに対応しています。有声音ですので、声帯の振動を伴います。あまり強く押し付けてしまうと違う音になってしまいますので、舌先を歯の裏側に軽く触れさせる程度をイメージするとよいでしょう。調音点の接触が弱いために、音そのものも非常に弱くなります。同じく摩擦音の[z]との使い分けがやや難しいので、[z]の項目でさらに解説します。

一般に信じられているように、歯と歯の間から舌を突き出して発音するわけではありませんが、歯と舌を軽く接触させて摩擦を起こす感覚をつかめるまでは、舌を突き出して発音してみるのも練習としては有効です。

[θ]は[ð]とペアになる「歯音」です。こちらは無声音で、声帯の振動はありません。これもthの組み合わせに対応する音です。音としては非常に弱いですが、強く発音しようとして舌先を強く歯に押し当ててしまうと違う音になりますので、舌先を上の前歯の裏側に軽く触れさせる程度にしましょう。同じく摩擦音である[s]との使い分けについては、[s]の項目で解説します。

[z]は[s]とペアになる摩擦音です。舌と歯茎部(上の歯茎の盛り上がった部分)の組み合わせて調音することから、「歯茎」摩擦音と呼ばれます。有声音ですので、声帯の振動を伴います。破裂音の[d]が歯茎部に舌先を押し当てていたのに対して、[z]では歯茎部に舌を触れさせずに調音します。イメージとしては舌の両サイドを持ち上げ口内の天井につけ、さらに舌の中心線をくぼませて、断面がUの字型になるような空気の通り道を作ります。パイプを半分に切ったような形ですね。そのパイプを通して空気を押し出し、歯茎部にぶつけるようにして音を出します。

別の摩擦音である[ʒ]とは正確に発音し分ける必要があります。カタカナで書くとすれば、「ジ」の音は[ʒ]に近く、「ズィ」の音が[z]に近いと言えます。ただしいずれにしても、日本語の「ザ行音」とは異なる音ですので、カタカナ発音にならないように気をつけましょう。

[s]は[z]とペアになる「歯茎」摩擦音です。無声音ですので、声帯の振動はありません。[z]と同じく、舌を半分に切ったパイプのように丸めて空気の通り道を作り、そこを通って押し出した空気を歯茎部にぶつけて音を出します。下の中心線が口内の天井に触れたり、左右から空気が漏れたりするとうまく音が出ませんので、最初はパイプをしっかり作るようにイメージしながら練習するとよいでしょう。

別の摩擦音である[ʃ]とは正確に発音し分ける必要があります。カタカナで書くとすれば、「シ」の音は[ʃ]に近く、「スィ」の音が[s]に近いと言えますが、やはり日本語の「サ行音」とは異なる音ですので、気をつけましょう。

[ʒ]は[ʃ]とペアになる摩擦音です。口内の天井部分の歯茎に近い部分には骨があり、舌で触ると硬いのが分ります。この場所を「硬口蓋」と呼びます。舌の前半分ほどを硬口蓋に触れさせて調音することから、「硬口蓋」摩擦音と呼ばれます。有声音ですので、声帯の振動を伴います。イメージとしては、先ほどの[z]の状態から舌の前方部分を持ち上げて硬口蓋に近づけるようにします。完全に舌を硬口蓋に密着させてしまうと空気がせき止められますので、少し隙間を空けておくようしてください。空気が流れて、硬口蓋の前半分から歯茎部にかけての範囲で摩擦が起きるのを確認しましょう。

日本語の「ジ」や「ジャ」などに近いですが、それはまた別の音ですので、破擦音の項目で解説します。また舌の持ち上げが不十分で摩擦の起こる範囲が狭いと、[z]の音に近くなってしまいますので、両者の違いが分かるまで比べながら発音練習してみてください。

[ʃ]は[ʒ]とペアになる「硬口蓋」摩擦音です。無声音ですので、声帯の振動はありません。[ʒ]と同様に、舌先から舌の前方の部分を歯茎部から硬口蓋の前半分の範囲に近づけて摩擦を起こすことで音を出します。[s]の状態から舌の前部を持ち上げるようにするとよいでしょう。

音としては、日本語の「シ」や「シャ」とほとんど同じです。ただし[ʃ]の発音をする際には、少し唇を丸めるようにします。これも舌の持ち上げが不十分だと[s]の音に近くなってしまいます。繰り返し発音練習して、違いを実感してください。

[h]は「声門」摩擦音と呼ばれますが、これは便宜上の分類です。他の摩擦音と違って、具体的にどこかの場所で調音を行うわけではなく、口内全体を広く使って音を響かせるようにします。したがって発音する際の唇や舌の形と位置は、単語の中で隣り合っている他の音の影響を受けて変化します。

[h]の音そのものは、日本語の「ハ行音」とほぼ同じですが、「ヒ」と「フ」に対応する音が若干異なっているので注意が必要です。日本語の「ヒ」は硬口蓋摩擦音に近く、舌が硬口蓋に近づいた状態で発音されます。これに対応する英語の[h]音では、舌の位置はずっと低く、摩擦もありません。また日本語の「フ」は両唇摩擦音に近く、唇をすぼめて突き出した形で発音されます。これに対応する英語の[h]音の場合は、唇のすぼめや突き出しがずっと少なく、口内の空間はより広がっていて、口内の全体が振動するような感じの音になります。日本語とは異なる音を中心に練習するとよいでしょう。

破擦音とは文字通り「破裂音」と「摩擦音」を組み合わせたものです。調音点で閉鎖を作り出して空気の流れを遮断し、破裂音よりはややゆっくりと空気を開放し、流れ出した空気で摩擦を生じさせるというステップを踏んで音を出します。少し難しそうですが、理屈が分ればそれほど特別な調音法ではありません。破擦音はふたつの子音が組み合わさったような表記になっていますが、実際にはふたつの音としてではなく、滑らかにひと続きの音として発音するのがポイントです。

[ʤ]は[ʧ]とペアになる破擦音です。硬口蓋の前方から歯茎部にかけての範囲に舌の先から中ほどまでを押し当てて調音することから、「硬口蓋(歯茎部)」破擦音と呼ばれます。有声音ですので、声帯の振動を伴います。最初の舌の位置は[ʒ]と同じですが、舌をぴったりと硬口蓋に密着させる点が違っています。密着させることで空気が押しとどめられ閉鎖ができます。そこからゆっくりめに舌を離すと狭い隙間ができて空気が流れ、摩擦音が生じます。舌打ちするのと同じ原理です。その際に声帯を振動させると[ʤ]の音になります。

[ʧ]は[ʤ]とペアになる「硬口蓋(歯茎部)」破擦音です。無声音ですので、声帯の振動はありません。歯茎部から硬口蓋の前方の範囲に舌を密着させて閉鎖を作り、それをゆっくり開放することで狭い隙間に空気を流し、それによって摩擦音を生じさせます。これもやはり舌打ちするのと同じ原理ですが、声帯の振動がない分、舌打ちの「チッ」という音そのものになります。

[ʧ]と[ʤ]に共通するポイントは、日本語の「チェッ」や「ジェッ」などと比べると、舌の位置が全体的に後方にずれているということです。舌が硬口蓋に密着する範囲も、[ʧ]と[ʤ]の方が広くなっています。また発音する際に、日本語で「チェッ」「ジェッ」と言う時よりもいくぶん唇を丸くするように意識するとよいでしょう。

[dr]は[tr]とペアになる破擦音です。「硬口蓋(歯茎部)」破擦音ですが、[ʧ]と[ʤ]の場合とは舌の形と位置が異なります。舌先を[d]の時よりも少し後ろの位置(歯茎部と硬口蓋の境界のあたり)に押し当てて閉鎖を作ります。この時に、舌の後部を軟口蓋の方に向けて持ち上げておくようにします。舌先を開放すると空気が流れますが、これは後述する[r]の時の形に似ています。ただしあらかじめ舌の後部を持ち上げておいたので、その部分が狭くなって[r]に摩擦音が加わったような音が出ます。[dr]そのものは有声音ですが、摩擦音の部分は無声音となっています。

[d]と[r]の組み合わせのような表記ですが、先に述べた通りこれはひとつの音ですので、ひとつの音として発音するように意識しましょう。最初の舌の形をしっかり作ることと、解放したときに舌の後方で摩擦が起こるのを確認することが、上達のコツです。

[tr]は[dr]とペアになる「硬口蓋(歯茎部)」破擦音です。舌先を[t]の時よりも少し後ろの位置に押し当てて閉鎖を作り、その際に舌の後部を軟口蓋に向かって持ち上げておくようにします。舌先を開放して空気が流れるようにすると、舌の後部のあたりで摩擦が生じ、[r]に摩擦音が加わったような音がでます。[dr]の無声音版です。

これも表記上は[t]と[r]の組み合わせに見えますが、実際にはこれでひとつの音ですので、ひとつの音として発音するようにしましょう。発音のコツは同じで、舌の位置に気を付けることと、舌の後部で起きる摩擦を意識することです。

[ʣ]は[ʦ]とペアになる破擦音です。舌先と歯茎部の組み合わせで調音することから、「歯茎部」破擦音と呼ばれます。[ʣ]は有声音で、声帯の振動を伴います。発音の仕方はごくシンプルで、歯茎部に舌先を押し当てて閉鎖を作っておき、それを開放することで空気の流れを作り、解放部で摩擦を生じさせます。なお[ʣ]は、英語ではほとんどの場合複数形名詞などの語尾にしか使われません。

摩擦音の[z]との区別が微妙ですが、例えばroseの[z]の音は有声音で、比較的しっかり発音されるのに比べ、roadsの終わりの[ʣ]では、後半の摩擦音が無声化し、やや弱くなります。イメージとしては、[ʣ]では最後が息の漏れるような音になると思えばいいでしょう。微妙ですが重要な区別ですので、良く違いを聞いて練習しなければなりません。

日本語の「ズ」あるいは「ヅ」との違いはあまりありませんが、これらが歯に舌を押し当てて発音するものであるのに対して、[ʣ]の調音点は歯茎部であるということには注意が必要です。日本語の対応する音より、少し舌の位置を後ろにずらすようにするとよいでしょう。

[ʦ]は[ʣ]とペアになる「歯茎部」破擦音です。無声音で、声帯の振動はありません。日本語の「ツ」の音と似ていますが、歯ではなく歯茎部に舌先を押し当てて調音するところが違います。舌先と歯茎部で閉鎖を作り、それを開放する時に解放部で摩擦音を生じさせます。[ʦ]も外来語を除けば、英語ではほとんど複数形名詞などの語尾にしか用いられません。語頭や語の途中に出てくる場合は英語話者には発音しにくいらしく、[t]の音に置き換えられることが多いようです。

特に発音の難しい音ではありませんが、単語の中で[t]と[s]が連続する時と、単語の終わりに[ʦ]が来る場合は、聞こえる音がかなり違いますので、注意して耳を澄ましてみてください。

鼻音は全て有声音ですので、声帯の振動を伴います。名前の通り、鼻腔の方に空気を流すようにして発音します。簡単にメカニズムを説明すると、軟口蓋(口内の天井部の喉に近いあたりで、軟らかい部分)は随意に上下させることができます。軟口蓋を挙げると鼻腔への通り道は遮断され、空気は口腔内に流れます。逆に軟口蓋を下げると、鼻腔にも空気が流れるようになるのです。鼻で息をする場合は無意識に軟口蓋を下げているわけですが、鼻音の発音練習をする際には、軟口蓋の高さを意識するとよいでしょう。なお鼻腔は音を吸収しやすいので、鼻音は全てややくぐもった音になります。

[m]の発音は、両唇を閉じて空気が出ていかないようにして、鼻腔に空気を送ると自然にできます。直後に唇歯音の[f]や[v]が来る場合は例外で、両唇ではなく上の前歯と下唇で閉鎖を作って、同じように鼻腔に空気が流れるようにします。次に来る音を予測して、あらかじめそのための形を作っておくというわけです。実際にやってみると、そうする方がスムーズに発音できることが分ります。

日本語の「ナ行音」を出す際には舌先と歯で調音しますが、英語の[n]音の場合は舌先と歯茎部で閉鎖を作り、鼻腔の方に空気を送るようにして発音します。ポイントは、調音点の閉鎖をしっかり保持することです。舌先が歯茎部から離れてしまうと違う音になってしまいます。口から空気が漏れず、鼻腔の方に流れているかどうかを確かめながら練習しましょう。

[n]の後に歯音の[ð]や[θ]が続く場合は、歯茎部ではなく、上の前歯の裏側と舌先で閉鎖を作り、鼻腔の方に空気を送るようにします。これも発音のしやすさからそうなっていて、次に来る音の形をあらかじめ作っておくというものです。

日本語の鼻濁音に似た音です。昔は大学を「ダイナク」のように発音する人が多かったそうですが、これは「ガ」が鼻に抜けるような音なのですね。[ŋ]の発音は、[ɡ]の時と同じように舌の後部を軟口蓋に向かって持ち上げ、同時に軟口蓋を下げて口の方に向かう空気を遮り、鼻腔に送るようにします。これで例えばsingの語尾が鼻にかかった[ɡ]、あるいは[ɡ]と[n]の中間のような音になれば成功です。

ちなみに、単語の中でngという連続があれば全てが[ŋ]と発音されるというわけではなく、[ŋɡ]と、ちゃんと[ɡ]も発音される場合があります。辞書などでしっかり確認するようにしてください。

わたり音というのは、ある状態から次の母音の調音に向かって口や舌の形を移行させる際に出る音のことです。また母音と子音の中間のような性質があるため、半母音と呼ばれることもあります。

[w]を発音するには、まず唇をすぼめて突き出すような形にしておきます。そして息を吐き出すのですが、この時点では声帯を振動させないようにします。声帯を振動させないので、まだ音は出ません。そこから次に来る母音(たとえば[uː])を出す形に移るのですが、その際に初めて[w]の音が出ます。次の音を出すまで音が出ないというのは、慣れるまでは感覚がつかみにくいと思います。繰り返し練習してみてください。少しヒントを出すとすれば、例えばwaitを日本語発音すると「ウェイト」となり、最初の音が「ウ」という母音になっています。しかし実際の英語の発音では、最初の母音の前に[w]の音を出すための予備動作が入っていると考えてみましょう。特に唇のすぼめを意識してしっかり行うと、英語らしい発音に近づくはずです。

ちなみに、疑問詞のwhatやwhyの発音を聞くと、「ホワット」「ホワイ」のように聞こえる場合と「ワット」「ワイ」のように聞こえる場合があります。地域差がありますので、注意して聞いてみると面白いでしょう。

[j]は日本語の「ヤ、ユ、ヨ」にも含まれる音です。発音するには、母音の[iː]のように舌先を歯茎部に近づけておいて、さらにそこから舌先を後ろにずらし、硬口蓋のあたりに持ってきます。これが最初のポジションです。その状態で息を吐きますが、まだ声帯を振動させず、したがって音も出さないようにします。そこから、次に来る母音(例えば[iː])の発音に移るのですが、その時に初めて[j]の音が出ます。これも例えばyellowを日本語風に発音すると「イエロー」で、最初に「イ」の母音が来ますが、実際の英語の発音では、最初の母音の前に[j]の音を出すための予備動作があると考えるとよいでしょう。予備動作の部分をしっかりできるように練習しましょう。

アメリカ英語では、特定の音の並びで[j]の音が脱落するということがしばしば起こります。例えばアメリカ人がよく使うdudeという単語は、イギリスであれば「デュード」のように[j]音込みで発音されますが、これがアメリカでは「ドゥード」のように[j]なしとなります。ですからNew Yorkも「ヌーヨーク」になったりするのです。ちなみに英語では[rjuː]、つまり「リュー」に対応する音が本来ないため、日本人の人名などには発音しにくいものもあるようです。

日本人の英語発音に関して特に話題になることの多い[l]と[r]を、流音と呼びます。両者を聞き分けたり、発音し分けたりするのが私たちは苦手ですが、これはやはりどちらも「ラ行音」の音として認識しているからでしょう。

[l]の調音点は歯茎部です。舌先を歯茎部に押し当て、舌先が離れないように気を付けながら発音します。歯茎部に舌先を当てるというのは、[t]や[d]と同じです。ただし[l]の場合は舌を細く尖らせて、舌の左右の縁が歯に触れないようにすることで空気の通り道を確保します。ポイントは舌先が発音するあいだ歯茎部に密着したままにするということです。日本語の「ラ行音」では歯茎部より少し後ろのあたりを舌先で弾くようにして発音しますので、その癖が出ないように気をつけましょう。

[l]には大きく分けて二種類あり、それぞれ明るい[l]と暗い[l]と呼ばれます。母音や[j]の前に来る場合ははっきりした音の明るい[l]となり、子音の前や語末に来る場合はややくぐもった暗い[l]になります。後者は「ウ」のように聞こえるかもしれません。普通に発音すると自然にこうなりますが、明るい[l]では舌が丸く盛り上がるようになり、暗い[l]では逆に舌が全体的に低くなりますので、確かめてみてください。アメリカ英語では、明るい/暗いの区別があまりはっきりしないことも多いようです。

[r]の調音点は歯茎部から軟口蓋にいたる広い範囲です。調音点には地域差や個人差があり、一般的に調音点が奥になるほどはっきりとした[r]音になります。基本的な発音の仕方は、舌先を持ち上げて歯茎部や硬口蓋、軟口蓋に近づけるというものです。ただし舌がそれらの箇所に接触しないようにします。「アー」と声を出しながら、舌先を持ち上げて歯茎部から喉の方に向けて動かしていくと、[r]の音が強くなるのが分るはずです。口もやや大きくひらき、丸くO字型に開くとなおよいでしょう。

舌が歯茎部などに触れてしまうと弾音になり、日本語の「ラ行音」のようになってしまいますので、接触しないように気をつけましょう。それから一部のアメリカ英語の発音では、舌先がほとんど喉の方に反り返ったような状態で[r]が発音されることがあります。逆にイギリス英語では一般的に語尾に来る[r]などを発音しないことが多いため、それぞれの発音の特徴を見分ける際には参考になるでしょう。

監修: 岡本 太助
March 2012
製作: 国立大学法人 大阪大学 世界言語研究センター 「社会人を対象とした学士レベルの外国語教育プログラムの提供」事業(平成20〜23年度)