スワヒリ語についてもっと詳しく知りたい人へ
((目次))
1. 歴史的に
2. 言語学的に
3. 参考書
1. 歴史的に
スワヒリ(swahili)の語源は,「海岸」を意味するアラビア語のサワーヒル(sawāhil)です。東アフリカの海岸地域では,早くから季節風を利用したインド洋交易が盛んでした。東アフリカ海岸地域の人々と,アラブ人やペルシャ人,インド人たちとの長期間にわたる接触の過程で発展してきたのが,スワヒリ語です。その起源の時期は明らかではありませんが,アラブの旅行家イブン・バットゥータが東アフリカ海岸を訪れた14世紀頃には,既に形成されていたと言われています。
19世紀に入り,インド洋沖のザンジバル島を拠点としていたアラブの交易商人たちは,内陸部へも進出を始めました。また,ヨーロッパの宣教師たちも,キリスト教の布教活動を内陸部で拡げていきました。これにより,スワヒリ語は東アフリカの広範囲に,また東アフリカを越えて,その周辺地域に拡がりました。
宣教師たちは布教の過程で,スワヒリ語をアルファベットを用いて書き表わすことを始めました。これにより,それまでは一部,アラビア文字で記されるも,ほぼ「話し言葉」であったスワヒリ語に,「書き言葉」が作り出されました。
植民地時代に入ると,統治の関係からスワヒリ語の必要性はさらに高められ,これにより,話者数も一層増えました。1930年には,イギリス領東アフリカの領土間言語(スワヒリ語)委員会が設立され,ザンジバル都市部の方言を基礎として「標準スワヒリ語」が制定されました。
現在,スワヒリ語はタンザニアとケニアの国家語,公用語に,またウガンダの公用語になっています。独立後のタンザニアでスワヒリ語の重要性は特に高く,国家建設,国民意識の形成に大きなはたらきをしました。現在でもタンザニアでスワヒリ語は政治や経済,教育,マスコミなどあらゆる面で大事な役割を担っています。また,小説や詩,戯曲などの文学作品も多くがスワヒリ語で出版されています。
2. 言語学的に
アフリカには800~1,000の言語があると言われています。スワヒリ語はその一つです。話者数は7,000万人と推測されていますが,母語話者(スワヒリ語を第1言語として話す人々)は200~500万人ほどであると言われています。また,スワヒリ語にはおよそ20の方言があります。私たちが本コンテンツ内でスワヒリ語と呼んでいるのは,「標準スワヒリ語」ということになります。
スワヒリ語はコンゴ・コルドファン語族のうち,ニジェール・コンゴ語系,ベヌエ・コンゴ大語群,バントゥ諸語に属しています。
スワヒリ語の大きな特徴には次の3つが挙げられます。
① 名詞クラス
個別の名詞がそれぞれ15のクラスに分類されています。
② 呼応
名詞に関わる語はその名詞クラスに対応したシルシを付けます。
③ 動詞シルシ形の膠着性
動詞は多くの場合,動詞本体だけで現われることがありません。通常,主語のシルシや時間のシルシ,目的語のシルシなど幾つかのシルシを規則的に付して現われます。
以上はバントゥ諸語の特徴でもあります。スワヒリ語はアラブ人などとの接触の過程で発展し,アラビア語などからの借用語やそれらを語源とする語も多く含んでいる言葉ですが,言語学的にはバントゥの言語,つまり,アフリカ固有の言語なのです。
スワヒリ語はアフリカ東部・中部の地域共通語としての性格から,多様な民族によって使われており,開放的で包容力のある言語です。発音は多くの音節が子音+母音からなり,日本語と似ていて容易です。また文法は例外がほとんどなく非常に規則的であり,学ぶべき項目も少なく,その内容も比較容易で,習得しやすい言語であると言われています。しかし,日本語使用者から見ると,発想の面では相当異なるところがあり,学ぶ楽しさを提供してくれる言語でもあります。
3. 参考書
3.1 文法書
○ スワヒリ語ってどんな言語?
竹村景子.2007.『スワヒリ語のしくみ』(CD付).白水社.
スワヒリ語の特徴をつかむには,まずこの一冊から始めるのがよいでしょう。スワヒリ語の発音のしくみや文のしくみなどについて,たのしい口調でわかりやすく説明されています。「文法がニガテ」という人でもとっつきやすい入門書です。
○ スワヒリ語をしゃべりたい!
竹村景子.2010.『ニューエクスプレス スワヒリ語』(CD付).白水社.
スワヒリ語をまず話せるようになりたいという人にはこの一冊をおすすめします。各課が会話とその会話に関わる文法の解説から成っており,前半の課では会話文に読み仮名もふってあります。2課おきに練習問題があり,自分の習熟度を確認しながら学習を進めることができますし,また「単語力アップ」や「表現力アップ」のページも随所にありますので,そこで会話力を磨くこともできます。
また実践的なスワヒリ語をまず身につけたい人にはこちらもおすすめします。
Joan Russel.2003.
Teach Yourself – Swahili (2nd Edition).Teach Yourself.
各課が会話と文法解説,練習問題から成っている「教科書」的な一冊です。例文も語彙も豊富です。英語で書かれているため,英語も副産物的に学べます。
○ スワヒリ語を詳しく勉強したい!
小森淳子.2009.『大阪大学世界言語研究センター 世界の言語シリーズ1 スワヒリ語』(CD付).大阪大学出版会.
スワヒリ語の文法を詳しく学びたいという人にはこの一冊がよいでしょう。大学のスワヒリ語初級の授業で使われることを想定して書かれたテキストですので,文法解説が詳しく書かれていますし,例文も豊富です。一方で「こぼれ話」的なコラムやタンザニアの写真も満載であり,内容盛りだくさんの文法書になっています。ところどころに挿入されているティンガティンガ風のイラストも素敵です。
○ スワヒリ語をもっと詳しく勉強したい!
スワヒリ語文法がある程度理解できていて,さらに詳しく勉強したいという人には,この『スワヒリ語文法』をおすすめします。「わかっていたつもり」のスワヒリ語が一度わからなくなるかもしれません。そうしてスワヒリ語の深みにズンズンとはまってゆくことでしょう。
なお,本スワヒリ語コンテンツは,外国語学習初心者が対象であるため,一般の文法書に用いられるような難しい文法用語は一切用いず,独自のやさしい解説用語で説明をしています。他の文法書でスワヒリ語を学習する人は,次の表を参考にしてください。
表【本コンテンツ独自の解説用語/一般的な文法用語】
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3.2 辞書
スワヒリ語→日本語の辞書には次のものがあります。
(スワヒリ語→日本語)
守野庸雄・中島久編.1992.『スワヒリ語常用6000語』.大学書林.
スワヒリ語→英語,および英語→スワヒリ語の辞書には,タンザニアのダルエスサラーム大学スワヒリ語研究所が出している,次のものがあります。
(スワヒリ語→英語)
Taasisi ya Uchunguzi wa Kiswahili.2001.
KAMUSI YA KISWAHILI-KIINGEREZA
,
SWAHILI-ENGLISH DICTIONARY.Taasisi ya Uchunguzi wa Kiswahili, Chuo Kikuu cha Dar es Salaam.
(英語→スワヒリ語)
Taasisi ya Uchunguzi wa Kiswahili(TUKI).2006.
TUKI
,
ENGLISH-SWAHILI DICTIONARY
,
3RD EDITION
,
KAMUSI YA KIINGEREZA-KISWAHILI
,
TOLEO LA TATU.Institute of Kiswahili Research,University of Dar es Salaam.
上の2冊は,日本ではまず手に入りません。タンザニアへ行って購入するか,タンザニアに旅行する知り合いに頼んで買ってきてもらいましょう。
英語→スワヒリ語の辞書には,次のものもあります。こちらは海外のインターネットサイトから購入できます。
(英語→スワヒリ語)
Kirkeby,Willy A.2002.
ENGLISH-SWAHILI DICTIONARY (2ND EDITION).KIRKEBY PUBLISHING COMPANY.
また,スワヒリ語→スワヒリ語の辞書には次のものがあります。スワヒリ語に慣れたら,この辞書を活用することをお薦めします。こちらも,海外のインターネットサイトから購入できます。
(スワヒリ語→スワヒリ語)
Taasisi ya Uchunguzi wa Kiswahili,Dar-es-Salaam.2004.
Kamusi ya Kiswahili Sanifu
,
Toleo la pili.OXFORD UNIVERSITY PRESS.
また,次のような辞書もあります。ご紹介しておきます。
Baraza la Kiswahili la Zanzibar.2010.
Kamusi la Kiswahili Fasaha.Oxford University Press.
Longhorn.2011.
Kamusi ya Karne ya 21.Longhorn Publishers.
以上。
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