「声門せばめ音 (stød)」について
デンマーク語には子音の一種とも考えられる声門せばめ音があります.これは声門をせばめ,息を出すのを一瞬おくらせるようにした結果できる音です.これはデンマーク語ではstød「突き音」と呼ばれ,長母音の後,
例 :
または短母音後の の後にしか現われません.
例 :
このstødの有無で意味が変わってくるので,重要な要素と言えます.例えば,læser という単語は,stødを伴わずに
と発音すると「読者」という意味を表すのに対してstødを伴って
と発音すると「読む」という意味の動詞 læse の現在形を表します.
stødはこのように確かに重要な要素ではありますが,stødの有無に関する複雑な規則を,外国人は音声学者でもないかぎり,マスターすることは不可能です.いいえ,外国人だけではありません,デンマーク人自身も出身地によってはstødのない方言を話す人や,標準語とは違ったところにstødが現われる方言を話す人もいますので,そういったデンマーク人にとっても標準語のstødをマスターすることは困難なことであると言えます.
したがって,外国人である私たちはstødというものが存在することは十分認識しておく必要はあるものの,こだわっていてはデンマーク語が上達できないでしょうから,それほどまでにこだわる必要はないだろうと思われます.日本語でもstødとは異なる現象ではありますが,高低アクセントによって単語の意味を区別しています.例えば,“箸”は東京周辺では(高い・低い)( ̄_)のアクセントであるのに対し,“橋”は(低い・高い)(_ ̄)のアクセントですが,大阪周辺ではその逆で,“箸”(_ ̄),“橋”( ̄_)です.大阪大学外国語学部の学生食堂で東京出身の学生が“箸”を取ってくれるように頼むときに, “は”を高く,“し”を低く( ̄_)と言ったとすると関西出身の学生には“橋”を取ってくれと言われたと聞こえるのですが,その関西出身の学生はちゃんと“箸”を取ってくれるはずです.同様に,私たち日本人がデンマーク語で「それらの町には」という文脈において,「それらの町」に対応する語 byerne を発音しようとしたとします.byerneは,本来ならstødを伴って,
と発音されますが,これを
とstød無しで言ったとしても,誰もその文脈では,このstød無しの発音 が意味するところの“にわか雨”bygerneの話をしているとは思わないで,byerne 「それらの町」のことを言っているだろうと理解してくれるにちがいありません.
設問は4つあります.ここでは,デンマーク語で比較的習得の難しい,[ð], [r], [ŋ] そして 「声門せばめ音stød」 に焦点を当てて,その聞き取りあるいは聞き分けをしてみましょう.
:[n] と [ŋ] の聞き分けられるかどうかを試す問題です.
:[ð] が聞き取れるかどうかを試す問題です.
:[r] が聞き取れるかどうかを試す問題です.
:「声門せばめ音stød」が聞き取れるかどうかを試す問題です.