ベトナムはインド洋と南シナ海を分けるインドシナ半島の東側に位置する南北に細長い国で、その言語は大きく北部・中部・南部の3方言に分かれます。この教材ではハノイを中心とする北部方言を学びます。それはハノイがベトナム社会主義共和国の首都で、ハノイを中心とする北部方言が一般に「標準語」とみなされること、ローマ字を用いた正書法が北部方言の発音によく合致することが主な理由です。皆さんが将来南部方言(例えばホーチミン市の言葉)を学ぶことになった場合、北部方言をある程度学んだ上でその方言を学んだほうがより一層効率的です。
ベトナム語を母語とする人の数は、ベトナム社会主義共和国の人口約8500万人(但し、母語を異にする約1割の少数民族を含む)に加えて、海外在住ベトナム人(アメリカ、カナダ、オーストラリア、日本、等々)が約320万人と言われています。日本国内にも関東では神奈川県、関西では大阪府八尾市、兵庫県神戸市等に多くのベトナムにルーツ持つ人々が在住しています。彼らの来日目的は様々ですが、多くが1975年以降にインドシナ難民として海を渡ってきた人達で、その苛酷な経験を乗り越えて日本で一生懸命生きようとする人達です。ベトナム本国との関係はもちろん、在日ベトナム人の多様な背景を知った上で彼等の言葉を通じて良好な関係を築くことも日本人として大きな意義を有することでしょう。
この教材は、ベトナムの有名な昔話「タムとカム(米姫と糠姫)」を題材にしてベトナム語の基礎が学べるような構成になっています。昔話「タムとカム」はベトナムの「シンデレラ姫」と言われるように、継母に育てられた少女タムの苦労と幸せを手に入れるまでを描いた物語です。まず、物語の中に出てくる一つ一つの文の構造が一目で見てわかるような図が示され、その中で個々の単語がどのような意味を持つのかが示されます。次いで、単語をつなげたフレーズの意味が示され、最終的にはフレーズのつながりがどのような意味のまとまり(文の意味)を生みだすかがわかるような仕組みになっています。また、各課に出現した文法事項を改めて「文型練習」という形で整理し、知識の定着を図ります。一方で、関連する文法や一般的な知識を「発展学習」として学ぶことにより、初級レベルに必要な知識がほぼ網羅できるような形になっています。ベトナム語の複雑な文字と発音に徐々に慣れるように、学習の流れとは別に「文字一覧」がいつでも参照できるようになっています。焦らずに一つ一つ文字と発音の関係を把握しながら学習を進めて下さい。