第10課 会話の言葉 Bahasa Percakapan

●文化紹介

Ⅰ.口語

混ぜて使わない

 スキット及び表現のコーナーで説明されているように、学校で習う標準インドネシア語と、会話で使われている口語は、様々な点で異なっています。たとえば、そもそも単語が異なるといった語彙的な違い、単語は共通しているもののある音が落ちたり変化したりといった音韻的な違い、用いられる接辞の形式が異なるといった形態論的(文法的)な違いがあげられます。口語的な特徴は、フォーマルとされている標準インドネシア語文法ではほとんど触れられません。

 せっかくインドネシア語を勉強したのに、実際に使われている言葉とは違うと愕然とする人もいますが、これらの口語表現は、あくまで身近な人とのくだけた会話の中でのみ使うものです。つまり、目上には使うことはできませんし、フォーマルな場で話す場合にはふさわしくありません。このように、誰とどこで話しているかによって、標準インドネシア語と口語を使い分けることが重要となります。口語と標準語を混ぜて使わないようにしましょう。

 

若者言葉

 首都のジャカルタを中心に、上記の口語インドネシア語が若者の間で広く使われています。その他の地方の若者にとって、それは都会的、格好いいといったイメージとして受け取られ、マスメディアやインターネットを通じていまや全国的に広まっています。さらに、主にジャカルタの若者たちは、次々と新しい造語や略語を作り出します。これらはbahasa gaulやprokémと呼ばれます。インドネシア人であっても他の世代や地域の人々にとって理解ができない場合がよくあります。

 このような若者言葉を知ることは、インドネシアの文化をより深く知ることにつながりますが、うっかり目上の人に使うことのないようにしましょう。


 

Ⅱ.多言語社会インドネシア

 インドネシアの多様性は、言語においても認めることができます。インドネシア語は国語(bahasa nasional)として全国的に使用されていますが、その他に地域や島ごとに異なる地域固有の言語が話されています。例えば、ジャワ島中部と東部ではジャワ語、ジャワ島西部ではスンダ語、スマトラ島西部ではミナンカバウ語、スラウェシ島南部ではブギス語、カリマンタン島南部ではバンジャル語、バリ島ではバリ語が用いられています。これらのインドネシア語以外の言語は地方語(bahasa daerah)と呼ばれ、その数は500とも700とも言われています。

 一般には、それぞれの地方語が母語であり、国語インドネシア語は主に学校教育で習得する第二言語です。首都ジャカルタをはじめとする都市部においては、地方語を話すことのできないインドネシア語単一言語話者が増加しつつあるものの、大多数のインドネシアの人々は、自分の出身民族の地方語を母語として習得し、さらにインドネシア語を学校で身につける二言語話者です。概して、インドネシア語は役所、職場、学校などの公的な場で用いられ、一方地方語は家族や友人の間といった私的な場で用いられます。しかし、私的な場でも、話題が政治やビジネス、専門的な内容となるとインドネシア語に切り替わったり、インドネシア語と地方語が混ざったりするコード切り替え(コード混在)の現象が見られます。また、初対面で互いの出身民族がわからない場合にもインドネシア語が選ばれますが、同郷であるとわかった時にはすぐに地方語に切り替わります。

 このように、様々な地方語を母語とする人々によって話されるインドネシア語には、地方語の影響が見られます。たとえば、先のジャワ語のmbak, masはすでにインドネシア語に定着しています。また、どの地方語を母語としているかによって、インドネシア語の"訛り"が異なります。語彙ももちろんですが、それぞれの地方語のアクセントやイントネーションがインドネシア語にも現れます。この教材では、ジャカルタ出身のインドネシア語モノリンガル、スンダ語とインドネシア語のバイリンガル、ジャワ語とインドネシア語のバイリンガルが話者として登場しており、彼らの間にもその"訛り"の違いが見られます。

 

パレンバン(南スマトラ)の子供たち
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マカッサル(南スラウェシ)の海辺
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