インドネシアでは、国是五原則パンチャシラ(Pancasila)で、国民は必ず唯一神への信仰を守ることが定められており、次の6つの宗教(agama)のどれかに属していなければなりません。すなわち、イスラム(Islam)、カトリック(Katolik)、プロテスタント(Protestan /Kristen)、ヒンドゥー(Hindu)、仏教(Buddha)、儒教(Konghucu)です。身分証には必ず宗教が記載されています。また、上記以外の信仰は、宗教としては認められていないので、kepercayaan(信仰)と呼ばれています。
インドネシア国民の9割近くがイスラム教徒です。そのため、いたるところにモスクや礼拝所があり、1日5回アザーンが聞こえます。ただし、インドネシアの場合、イスラム教徒の女性たちがスカーフ(インドネシア語ではジルバッブ jilbabといいます)を被るか否かは、本人たちが決めています。したがって、イスラム教徒であっても、スカーフを被っている人と被っていない人がいますが、近年、インドネシアではイスラム化が急速に進んだことに伴い、スカーフを被る若者が急増しています。1日5回の祈り、断食、豚肉・アルコール摂取の禁止など、イスラム教徒に課されているルールは多々ありますが、それらの実践は個人に任されています。ただ、地域差・種族差も大きく、宗教実践に対して寛容な場合もあれば、非常に厳しい場合もあります。
インドネシアにはイスラム教徒以外にも、キリスト教徒やヒンドゥー教徒が多く生活しています。宗教と種族の関係は単純ではありませんが、例えばスマトラ島のバタック人はキリスト教徒が、バリ人はヒンドゥー教徒が多いというように、ある程度の傾向は見られます。
ヒジュラ暦第9月はラマダン(Ramadan / Ramadhan)または断食月(bulan puasa)といい、その一ヶ月間、イスラム教徒は日中太陽が出ている間、飲食を絶つことが義務付けられています。スキットにもあるように、サウール(sahur)という食事を午前3時頃にして、その後夕方の礼拝の時間であるマグリブの時間(午後6時頃)まで断食します。断食があける時間は当然地域によって異なり、また日によってずれていきます。それは、地域ごとに正確に計算され、それを記したカレンダーが事前に発表されており、人々はそれにしたがっています。マグリブのアザーンが聞こえると同時に、まず水を飲んだり、コラック(kolak:サツマイモ、カボチャ、バナナなどをココナツミルクで甘く煮たもの)を飲んだりして断食を解きます(buka puasa)。ラマダンの間は、皆で集まって夕飯を食べる機会が増えます。家族・親戚、近所、町内会、同窓会、友達など、様々な単位で集まって食事をしますので、夜はとても賑やかです。
ラマダンの間も、会社や学校は休みにはならず、通常の生活を送ります。ただし、この間、人々は空腹と眠気と闘っていますので、比較的活動は控えられています。断食は旅行や病気などの理由がある場合には免除され、断食月が終わってから、その免除した日数分、自分でおこなうことができます。
断食月はイスラム教徒にとって聖なる月ですので、イスラム教徒でなくても、お酒を飲んで騒ぐ等、この時期にふさわしくない行為をあからさまにしていると、イスラム教徒の気分を害します。気をつけましょう。
上記の断食月があけた次の日(ヒジュラ暦第10月1日)は、ルバラン(Lebaran)またはイドゥル・フィトリ(Idul Fitri)といい、イスラム教徒の祭日になります。ルバランが西暦で何月何日にあたるかは、毎年、インドネシア政府によって発表されますが、解釈の違いにより、1日、2日ずれて祝う集団もあります。
ルバランを家族で祝うために、ルバラン数日前から人々は一斉に帰省します(mudik)。労働者はボーナスをもらい、子供たちの服を新調します。帰省の移動手段はバス、電車、バイク、車、飛行機など様々ですが、この間、交通機関は満席状態が続きます。また、移動にはかなりの時間が必要なため、ルバランの休み自体は2日でも、全ての人が帰省して戻ってくるまで、1~2週間かかります。
ルバランの日の朝、まずsolat Idという合同礼拝があり、男性も女性もほぼ全員がこの礼拝に出席します。一斉に祈る姿は壮観です。それから、各自、家でまず両親に跪いて、1年の非礼や親不孝を詫びます。その後、家族や近所の人々に対しても同様に赦しを請います。この時のあいさつとしてMohon maaf lahir dan batinという表現がよく使われます。lahirは外面上のこと、batinは内面上のことを指します。すなわち、行為としておこなったことだけでなく、心の中で思ったことに関しても、非礼を詫びます。それから、皆でルバラン用の食事を食べます。
イスラム教徒にはルバラン(イドゥル・フィトリ)の他に、イドゥル・アドハ(Idul Adha)という行事があります。これはメッカ巡礼の最終日を祝うための行事で、合同礼拝の後、生贄の牛やヤギなどを皆で食します。