文字と発音

 まず、文字と発音を学びましょう。ハンガリー語はラテン文字で表記します。英語とちがうところは、ラテン文字2つ、あるいは3つからなるアルファベットがあることと、長い音を表わす補助記号を使うことです。


 ハンガリー語では母音と子音に長短の区別があります。長母音には、短母音の上に短い斜線の長音記号をつけます (á, é, í, ó, ú)。これらはアクセント記号ではありません。ドイツ語にみられるようなウムラウト記号を使って書き表す短母音 (ö, ü) に対応する長母音には、二重の短い斜線をつけます(ő, ű)。この記号はハンガリー語にしかないものなので、これが出てくれば、それはハンガリー語だということがわかります。q, w, x, y は、外来語や古い正書法にしたがって書かれる人名以外にはあまり使われません。

1. アルファベット (ábécé)

音声ボタンを押して、ハンガリー語のアルファベットを聞いてみましょう。

大文字小文字 音声名称発音
Aa[][]
Áá[a:][a:]
Bb[be:][b]
Cc[tse:][ts]
Cscs[te:][t]
Dd[de:][d]
Dzdz[dze:][dz]
Dzsdzs[de:][d]
Ee[][]
Éé[e:][e:]
Ff[f:][f]
Gg[ge:][g]
Gygy[e:][]
Hh[ha:][h]
Ii[i][i]
Íí[i:][i:]
Jj[je:][j]
Kk[ka:][k]
Ll[l:][l]
Lyly[j:] ([l:ipsilon] )[j]
Mm[m:][m]
Nn[n:][n]
Nyny[:][]
Oo[o][o]
Óó[o:][o:]
Öö[][]
Őő[:][:]
Pp[pe:][p]
Qq[ku:][k]
Rr[r:][r]
Ss[:][]
Szsz[s:] [s]
Tt[te:][t]
Tyty[ce:][c]
Uu[u][u]
Úú[u:][u:]
Üü[y][y]
Űű[y:][y:]
Vv[ve:][v]
Ww[duplve:][v]
Xx[iks][ks]
Yy[ipsilon][i]
Zz[ze:][z]
Zszs[e:][]

2. 文字と音の関係

 ハンガリー語では文字と音が1対1に対応しており、ふつうは、書いてあるとおりに読めば発音できます。単語はつねに一番最初の母音を強く発音します(アクセントはつねに第1音節にあります)。音声ボタンを押して、発音を聞き、まねして練習しましょう。

2-1. 母音の発音

i [i]唇をしっかり両端に引いて発音します。
i [i:]iを長くのばします。
e []日本語の「エ」とほぼ同じです。
é [e:]eよりも口をせばめて発音します。「携帯」を「ケータイ」と言うときの「エー」です。
u [u]口笛を吹くときのように、唇を前に突き出して丸めて発音します。日本語の「ウ」とはちがうことに注意しましょう。
u [u:]uを長くのばします。
o [o]日本語の「オ」よりも唇を丸めて発音します。
o [o:]oを長くのばします。
a []oを発音した状態で、のどに力をいれて、「ア」と発音してみましょう。こもった暗い響きのする「オ」に近い「ア」です。
á [a:]日本語の「ア」を長くのばします。
ö []eを発音したときの舌の位置のまま、唇だけをoのように丸めて発音します。
ő [:]öを長くのばします。
ü [y]iを発音したときの舌の位置のまま、唇だけをuのように丸めて発音します。
ű [y:]üを長くのばします。

2-2. 子音の発音

p [p]apa
b [b]bab
t [t]
d [d]deでも、しかし
k [k]kék青い
g [g]gép機械
l [l]

舌先を上の歯茎の裏につけて発音します。

r [r]óra時計まき舌のrです。
m [m]ma今日
n [n]nap
ny []anya日本語の「ニ、ニャ、ニュ、ニョ」の子音です。
ty [c]kutya nyと同じ舌の位置で発音します。「ニュ」と同じように、舌を歯と歯茎の裏に広く押しつけるようにして「テュ」と言ってみましょう。
gy []gyerek子どもtyの有声音です。
f [f]finomおいしい上の前歯を下唇の内側に軽くあてて発音します。
v [v]vanあるfの有声音です。
sz [s]szépきれいな日本語の「ス」の子音です。
z [z]zene音楽szの有声音です。ただし、日本語の語頭の「ズ」と違って、舌が上につかないことに注意しましょう。
s []este日本語の「シュ」の子音です。唇を前に突き出して発音します。
zs []zsebポケットsの有声音です。日本語の語頭の「ジュ」と違って、舌が上につかないことに注意しましょう。
c [ts]cím住所日本語の「ツ」の子音です。
dz [dz]edző(スポーツの)コーチ日本語の語頭の「ズ」と同じです。前に日本語のちいさい「ッ」が入り、つまった音になります。
cs [t]kicsi小さい日本語の「チャ」の子音です。
dzs [d]dzsemジャムcsの有声音です。日本語の語頭の「ジャ」の子音と同じです。
h [h]ház日本語の「ハ」の子音です。語末では発音されません。
ruha洋服
csehチェコ人
j [j]japán日本人日本語の「ヤ」の子音です。
ly [j]milyenどんなjと同じです。
x [ks]taxiタクシー

2-3. 長子音

 同じ子音がふたつ続くとき、その子音はつまって発音されます。日本語の促音や撥音のようになります。

ittここに
kettő2
kedd火曜日
akkorそのとき
reggel
merreどこに
tessékどうぞ

 cs、 dz、 dzs、 gy、 ly、 ny、 sz、 ty、 zs などのように、ラテン文字ふたつ以上で記される子音がふたつ続くときは、最初のラテン文字だけを2回繰り返して書きます。

könnyűやさしい
rossz悪い
asszony婦人
meccs試合


3. 母音調和

 ハンガリー語の音には母音調和という現象があります。これは、母音がいくつかのグループに分かれ、異なるグループに属する母音はひとつの語のなかに共存しないというものです。つまり、仲のよい母音と悪い母音があって、同じグループの母音は仲間になることができますが、グループがちがうと仲間になれないと考えてください。

 母音を発音するときの舌の位置や形をよく観察してみてください。o と発音したときは、舌の後ろの方がもりあがっていませんか? ハンガリー語の母音は、舌のもりあがっている一番高い位置が口の後ろの方にある後舌母音のグループと、それが前の方にある前舌母音のグループとに分かれます。さらに前舌母音は、唇を丸める円唇母音と丸めない非円唇母音の下位グループに分かれます。

 

後舌母音a、 á、 o、 ó、 u、 ú
前舌母音非円唇前舌母音i、 í、 e、 é
円唇前舌母音ö、 ő、 ü、 ű

 

 ハンガリー語の単語(語幹)は、本来、前舌母音だけからなる前舌母音語か、後舌母音だけからなる後舌母音語のどちらかです。しかし、外来語にはこの規則があてはまらないので、両者が混在している混合語もたくさんあります。

 現代のハンガリー語では、厳密な意味での母音調和の現象は、語幹とそれにつく接尾辞のあいだに見られます。ハンガリー語では、さまざまな接尾辞を使って、文法関係を表わしたり、新しい単語を派生します。このとき、語幹の母音と接尾辞の母音は同じグループに属するものでなければならないので、母音調和の規則が重要になります。