デンマーク語の数詞は,これまでの課で学習して分かるように,複雑怪奇です.このコラムは,デンマーク語の数詞についての理解をより深めるためのものです.
20 = tyve〔に・じゅう〕=〔2つの10〕
30 = tredive 〔さん・じゅう〕=〔3つの10〕
40 = fyrretyve 〔し・じゅう〕=〔4つの10〕
tyveは元々は <10> を意味する名詞の複数形でした.30では,このtyveに相当する部分の音が変化して -diveになっています.30ではtre- が <3> を表し,40ではfyrre- が <4> を表していますが,20では <2> を表す部分が消えてなくなったと考えられています.歴史上のある時点でtyveがもう <10> の複数形とは思われなくなったのがその原因かも知れません. ところで,40はふだんは -tyveを省略して,fyrreと言います.
50 = halvtreds,halvtredsindstyve〔"halvtredje"・"sinde"・"tyve" 2½×20〕
60 = tres,tresindstyve〔"tre"・"sinde"・"tyve" 3×20〕
70 = halvfjerds,halvfjerdsindstyve〔"halvfjerde"・"sinde"・"tyve" 3½×20〕
80 = firs,firsindstyve〔"fire"・"sinde"・"tyve" 4×20〕
90 = halvfems,halvfemsindstyve〔"halvfemte"・"sinde"・"tyve" 4½×20〕
50, 60, 70, 80, 90は〔○×20〕,すなわち〔○・sinde・tyve〕が基になっています.60と80は単に〔3×20〕,〔4×20〕ですが,50,70,90では帯分数が用いられ,〔2½×20〕,〔3½×20〕,〔4½×20〕のように言われます.ふだんは左の短い形を用います.
ここで注意を要するのは,tyveの意味が20,30, 40では <10> であったのに対し,50以降では <20> である点です.つまり,20,30, 40はノルド祖語にまで遡れるのに対して,50 ~ 90はtyveが <20> として定着した後の時代,すなわち中世デンマーク語までしか遡れないのです.
上で見たように,50,70,90の成り立ちでは2½, 3½, 4½という帯分数が用いられています.そして2½ではtredje <3番目>,3½では fjerde <4番目>,4½では femte <5番目> という序数詞が用いられていますが,それはなぜなのでしょうか?
それは,例えば2½では下の図のように,対象物の3番目のものの半分までが埋まった状態を思い浮かべれば納得できるのではないでしょうか.
これは時刻が2時半の時に,Klokken er halv tre. というのと事情が似通っています.halv treは古くはhalv gaaen treと言いました.gaaenとはat gaa (= gå) の古い過去分詞形で,<進んだ> という意味です.つまり,全体で <3時に向かって半時間進んだ> という意味だったと思われます.
さて,この帯分数ですが普段の生活では聞くことは稀です.ただし,1½は例外で,日常的に非常によく用いられます.1,50 kr. をen krone og halvtreds øreと言う代わりに,ふつうhalvanden krone <1½クローネ> と言います.150を(et) hundrede (og) halvtredsと言う代わりに,ふつうhalvandet hundrede <1½百> と言います.
デンマーク語には <15分> を表す名詞kvarterがありますが,45分を表すときにtre kvarter <3つの15分>,1時間15分を表すときにfem kvarter <5つの15分> などと言う人がいます.<15分> を表す名詞を持たない日本人にはややこしい言い方だと思われます.さすがに30分をto kvarter <2つの15分> と言うのを聞いたことがありませんし,デンマーク語のコーパスで調べても1例しか使用例がありませんでした.
デンマーク語には <20> を表すsnesという名詞があります.<私は日本に20年間住んでいます.> という時に,<20年> をtyve årという代わりにen snes årという人がいます.<10年> ならば,ti årという代わりにen halv snes år <20の半分の年> と言い,<40年> ならば,fyrre årという代わりにto snese år <2つの20年> と言う人がいます.tre snese, fire sneseという言い方をする人もいます.さすがに <30> を <1½・20> とは言わないだろうと思い,コーパスで調べてみると2つの使用例がありました.
デンマーク語では117という数詞で <驚くほど多数の> という意味を表します.
Jeg kan 117 historier af den slags. 私はその手の話を山ほどできます.
[historie (-en, -er):話;歴史]
Det har jeg sagt 117 gange. それは私は何度も何度も言いました.