ヨルバ語の文字と発音

ヨルバ語の社会はもともと文字を持たない社会でした。 19世紀にキリスト教宣教師がヨルバ語をローマ字で表記する方法を開発し、改良を経て現在の表記になっています。

ヨルバ語のアルファベットは「アリファベーティÁlífábé̩è̩tì」と呼びます。 また、ABD(「アビディÁbídí」)と呼ぶこともあります(ヨルバ語ではCの文字は用いないため)。

ヨルバ語のアルファベットは25文字からなります。

ABDEFGGBHIJKLMNOPRSTUWY
abdefggbhijklmnoprstuwy
  • GB/gbは2文字で一つの子音を表しています。
  • C/c, Q/q, V/v, X/x, Z/zは用いません。また、U/uから始まる語はありません。
  • 英語と同じく、文頭および固有名詞の語頭は大文字で、それ以外は小文字で書きます。

■ 母音

母音は、口母音と鼻母音とがあります。

● 口母音

日本語はアイウエオの5母音体系の言語ですが、ヨルバ語は7母音体系の言語です。 ヨルバ語の「a」「i」「u」は日本語の「ア」「イ」「ウ」とほぼ同じですが、日本語の「エ」「オ」に相当する母音は、ヨルバ語では「e」と「」、「o」と「」の二種類があります。単に下に点が付いているかいないかの違いですが、全く別の母音(音素)です。我々日本人にとって、この二種類の音の差は区別が非常に難しく、相当に慣れないと聞き分けることができません。

(なお、活字にする場合、下に付く点は、黒丸の[ . ]と、短い縦長の[ ˌ ]の二種類があります。どちらでも構いませんし、フォントにもよりますが、文書内ではどちらかに統一してください。)

の音は、eより少し広く口を開けた音です。 同様に、oよりも少し口を開けます。 参考のため、IPA表記を併記しておきます。

esound player[e]
sound player[ɛ]
osound player[o]
sound player[ɔ]

● 鼻母音

ヨルバ語には鼻母音が現れます。 鼻母音とは、息が鼻から抜ける音のことをいいます。 鼻母音には次の4つがあります。 nの文字が使われていますが、母音の一種です。 日本語の「イン」「ウン」のように発音してはいけません。 音声を良く聞いて練習してみてください。

insound player[ĩ]
e̩nsound player[ɛ̃]
unsound player[ũ]
an/o̩nsound player[õ]~[ɑ̃]

an [ɑ̃]o̩n [õ]は同じ音素であるとされ、 b f gb p wの後ろではo̩n、それ以外の子音の後ろではanと表記します (ただしahó̩n「舌」などの例外もあります)。 ano̩nが現れる以下の例を聞き比べて見てください。

àbò̩nsound player
fo̩nsound player
gbò̩nsound player
po̩nmisound player
wó̩nsound player
dánsound player
e̩gànsound player
hànsound player
ò̩kansound player
rántísound player
sansound player
S̩àngósound player
tánsound player
iyánsound player
ìjàngbò̩nsound player

鼻母音mの後ろに立つo̩, uおよびnの後ろに立つa, uは常に鼻母音となるため、nを表記しません。

mò̩sound player[mɔ̃]
inásound player[inɑ̃]

またmの後ろにo̩n, un以外の鼻母音、nの後ろにan, un以外の鼻母音は立ちません。


鼻母音が連続するときは、読み間違いを避けるためにmárùn-ún「5つの」のように、間にハイフンを入れます。したがってこのハイフンは語形成要素の境界を示すものではありません。

(参考:鼻母音はほとんどの場合CV音節に現れます。例外はfún un (CV V)「彼に与える」など。)

■ 子音

● 破裂音

b d g t k

これらの子音は、日本語に相当する子音とほぼ同じ発音です。

bàbásound player
àdásound player
igisound player
ètesound player
kòkòròsound player

ただし、ti / tuはやや口蓋化され、チ、ツのように聞こえます。

etísound player
òtútùsound player

● 破裂音(二重調音)

gb p

これらの音は破裂音の一種ですが、西アフリカの言語に特有の音です。 ちょっと難しいですが、口の中で2か所の音を同時に発音するような音であると捉えてください。 「グバ」「グボ」のようにならないように注意してください。

gbは、gbを同時に調音します([g͡b])。

àgbàsound player
agbò̩nsound player
àgbo̩nsound player
agbó̩nsound player

pは、kpを同時に調音します([k͡p])。 ヨルバ語では[p]のみの子音は現れません。

apásound player
eposound player
è̩pàsound player

● 摩擦音

f h s s̩

f, h, sはローマ字が表す音とほぼ同じです。 ただし、hの音に関しては、有声音化したり、明瞭に発音されないことがあり、聞き取りにくいことがあります。

fìlàsound player[filɑ]
fihànsound player[fihɔ̃]
hùwàsound player[huwɑ]
hanrunsound player[hɑ̃rũ]
sound player[se]
sálo̩sound player[sɑlɔ]

sの下に点がついたは、ローマ字でshと表される音とほぼ同じです。

s̩is̩é̩sound player[ʃiʃɛ]
s̩ó̩ò̩bùsound player[ʃɔːbu]

● 破擦音

j

日本語では「ジャ」の音に似ていますが、舌先を下の前歯もしくは歯茎につけ、やや後寄りの舌面で調音されます。

o̩jàsound player[ɔʤɑ]
ojúsound player[oʤu]

● 接近音

w y

日本語のワ、ヤで聞こえるw yの音とほぼ同じです。w yは、鼻母音の前で鼻音化します。

sound player[wɑ]
àwòránsound player[ɑworɑ̃]
yàrásound player[jɑɾɑ]
yìnbo̩nsound player[j̃ĩbɔ̃]

● 流音

l r

lは舌先を上の前歯につけ、ゆっくり話ながらラと発音します。 英語の語末におけるlのように軟口蓋化させてはいけません。

rは反り舌はじき音で、舌先を口蓋上部(歯茎のやや奥の部分)まで巻き上げ、前に倒して硬口蓋歯茎を叩くようにして発音します。

rは、鼻母音の前で鼻音化します。

sound player[lu]
ilásound player[ilɑ]
è̩rò̩sound player[ɛɽɔ]
ráns̩é̩sound player[ɽɑʃɛ]

● 鼻子音

m n

mは日本語のマ行のmと同じ音です。 nは、母音の前(CV音節)に現れる時は日本語のナ行のnと同じですが、単独で現れたり、子音の前に立つ時は日本語の「ン」(音節を成す鼻子音)と同じ発音になります。

nは母音の後ろに表記されると、その母音を鼻母音化します。

mに後続するo̩ u、およびnに後続するa uはすべて鼻母音です。 したがって鼻母音の表記に用いられるnは省略されます。

e̩musound player[ɛmũ]
ìmò̩sound player[ìmɔ̃]
náàsound player[nɑ̃ɑ̃]
inúsound player[inũ]

■ L と N の交替

lと母音の前に立つn(音節を成さないn)は、特定の母音の前で相補的に分布し、異音関係にあると考えられます。 niとすべての鼻母音の前に現れ、それ以外の母音の前では全てlになります。

例えば、前置詞「…で、…に」は、その際後続する名詞がi以外の母音で始まると、nlに変化します。 (なお、ヨルバ語には鼻母音で始まる語は存在しませんので、以下の例には挙がっていません。)

ní ànásound playerlánàásound player
ní èdè Yorùbásound playerlédè Yorùbásound player
ní E̩de̩sound playerlÉ̩de̩sound player
ní okosound playerlókosound player
ní o̩bè̩sound playerló̩bè̩sound player

ただし、母音で始まる名詞の前に立つと母音の融合、もしくは脱落を起こしますが、nlに変化することはありません。

ní ilésound playernílésound player
ní Ìbàdànsound playernÍbàdànsound player

■ 声調

ヨルバ語は声調言語であり、音の高低によって語や文の意味が変わります。

ヨルバ語には高声調(H)、中声調(M)、低声調(L)の三つの声調があり、母音のアクセント記号を付して表記されます。 高声調はá、低声調はàで表わされます。 中声調は記号を付けません。

声調はすべての音節に一つずつかぶさるようにして存在します。 音節の母音(音節主音)が脱落しても声調は残ることがあり、前後の声調に様々な影響を及ぼします。

● 声調の現れ方

ヨルバ語には、母音と子音が全く同じで、声調だけで区別される語彙がたくさんあります。以下の例を聞き比べてください。

o̩ko̩sound playerMM
o̩kó̩sound playerMH
o̩kò̩sound playerML
ò̩kò̩sound playerLL
kó̩sound playerH
ko̩sound playerM
kò̩sound playerL

ヨルバ語には母音で始まる2音節(VCV)の名詞がたくさんあります。 これらは語頭に高声調が立たないという制限がありますが(一部外来語を除く)、それ以外はすべて声調の組み合わせが可能です。

edésound playerMH
atasound playerMM
odòsound playerML
è̩kó̩sound playerLH
ìkasound playerLM
ètèsound playerLL

子音で始まる名詞(動名詞や外来語など)は、語頭に高声調をとることが可能です。(動詞は必ず子音で始まります)。

dídésound playerHH
lílo̩sound playerHM
mó̩tòsound playerHL

ヨルバ語動詞の基本は子音で始まる1音節語(CV)です。高中低3種類の声調すべてが可能です。(ただし、低声調動詞は、名詞目的語の前で中声調に変化します。)

fé̩sound playerH
musound playerM
sound playerL

音節を成す鼻子音には声調があり、高・中・低の全てが可能です。

ńkó̩HH
panlaMMM
gò̩ǹgó̩LLH

■ 音節

ヨルバ語の音節は、母音(V)、子音と母音の連続(CV)、音節を成す鼻子音(N)の三種類から成り立っています。 1つ以上の音節からなるヨルバ語の単語は、これら三種類の音節の組み合わせによって成り立っています。

a - désound player
ò̩ - gè̩ - dè̩sound player
o̩ - mo̩ - la - n - kesound player

音節の並び方に制限はなく、いろいろな組み合わせが見られます。

bé̩ - è̩sound playerCV-V
ń - kó̩sound playerN-CV
kò̩ - ǹ - kò̩sound playerCV-N-CV
n-ǹ-kansound playerN-N-CV
n ò lo̩sound playerN V CV

音節をなす鼻子音は原則的にすべて/n/で表記しますが、実際の発音は直後の子音によって決まります。 なお[m]で発音されるときに限り、mで表記されることがあります。

jà - ǹ - básound player[m]
ò - ǹ - tè̩sound player[n]
ń - kó̩sound player[ŋ]
n ò lo̩sound player[ɴ]
ò - ǹ - gbe̩sound player[ŋ͡m]

● 語の切れ目

ヨルバ語には語と語の間に休止をいれないで発音する傾向があります。また全ての語は母音で終わり、多くの名詞が母音で始まるため、語と語の境目で母音が連続することが多くなりますが、その際母音が脱落したり、変化することがよくあります。

(i)bí o̩mo̩sound playerbímo̩sound player
(ii)kí o̩mo̩sound playerkó̩mo̩sound player
(iii)pa iró̩sound playerpuró̩sound player
(vi)sí arasound playersírasound player
(v)sí arasound playersárasound player

母音が連続する場合に前後どちらの母音が脱落するか、はっきりとしたルールはありません。(i)と(ii)は発音も意味も似た例ですが、(i)では後ろ、(ii)では前の母音が脱落しています。 (iii)では全く違う母音に変化していますし、(iv)と(v)では同じ単語の連続であるにもかかわらず、araを「自身」ととるか「体」ととるかで前後どちらの母音が脱落するかが異なっています。

詳細は第10章「語の連続と音声変化」を参照してください。

■ ヨルバ語のキーボード・タイピング

見ての通りヨルバ語にはアクセント記号とe o sの下につく点を書く必要があるため、普通のキーボードでは入力することができません。MS Wordなどを使用する場合は、臨時記号挿入(「挿入」→「記号と特殊文字」)を駆使してなんとか入力することも出来ない訳ではありませんが、大変に時間がかかってしまいます。

このコースの作者が使用しているヨルバ語入力システムは、Tavultesoft社が作成したKeymanという多言語文字対応の仮想キーボード入力システムです(有償)。ただし、Keymanはカスタマイズ用の入力システムであり、言語ごとのパッケージは別にインストールして関連付けてやる必要があります。作者は "Yoruba (ver.4.1)" という言語パッケージを使用しています。

参考までに、"Yoruba (ver. 4.1)"でヨルバ語を入力する際のキー・ストロークの方法を書いておきます。なお、作者が使用しているキーボードはWindows106配列のものです。

í é á ó ú[*:け]を押してから、または押したまま、それぞれのキーを押す
Í É Á Ó Ú[*:け]を押してから、[Shift]+それぞれのキーを押す
ì è à ò ù[半角/全角 漢字]を押してから、または押したまま、それぞれのキーを押す
Ì È À Ò Ù[半角/全角 漢字]を押してから、[Shift]+それぞれのキーを押す
é̩[*:け]を押してから、または押したまま、[右Alt]+[Eいぃ]
[右Alt]+[Eいぃ]
è̩[半角/全角 漢字]を押してから、または押したまま、[右Alt]+[Eいぃ]
É̩[*:け]を押してから、[Shift]+[右Alt]+[Eいぃ]
[Shift]+[右Alt]+[Eいぃ]
È̩[半角/全角 漢字]を押してから、[Shift]+[右Alt]+[Eいぃ]
ó̩[*:け]を押してから、または押したまま[右Alt]+[Oら]
[右Alt]+[Oら]
ò̩[半角/全角 漢字]を押してから、または押したまま[右Alt]+[Oら]
Ó̩[*:け]を押してから、[Shift]+[右Alt]+[Oら]
[Shift]+[右Alt]+[Oら]
Ò̩[半角/全角 漢字]を押してから、[Shift]+[右Alt]+[Oら]
[右Alt]+[Sと]
[Shift]+[右Alt]+[Sと]
ń[*:け]を押してから、または押したまま[Nみ]
Ń[*:け]を押してから、[Shift]+[Nみ]
ǹ[半角/全角 漢字]を押してから、または押したまま[Nみ]
Ǹ[半角/全角 漢字]を押してから、[Shift]+[Nみ]

ところが、ヨルバ語の読み書きに慣れた人は、入力の煩雑さを伴う上記のような方式は無視して、普通のローマ字アルファベットでヨルバ語を書くことが多いようです。下は、Facebook上のヨルバ語使用の例ですが、文字に添加される上下の記号を一切使わずに書かれています。日本語をひらがなのみで書くような感覚に例えられるでしょうか。ヨルバ語の読み書きに慣れている人であれば、何が書いてあるかはほぼ理解できるようですが、この方式だと、同音異義語が極端に多くなってしまうので、初学者が読むことは難しいでしょう。